マイにち×○ざんマイ

20代後半の○○○が、仕事とは無関係のことを毎日きまぐれに書いていきます。短いは正義。わかっているけどだいたい長くなる。

ゴールデンスランバー|アラサーという世代の妙

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学生時代の仲間は一生モノだ。高校時代、思春期を共にし、部活などで一緒に同じ汗と涙を流し、共に大学受験という関門を乗り越えた仲間。大学生というモラトリアム期間を、サークルで、学生団体で、または研究室で、無駄な時間を、意識高い系の時間を、あるいは辛く苦しい卒論に向けた研究時間を共に過ごした仲間。

しかし、学生時代似たような生活を送っていた友人同士であっても、ひとたび社会に出れば全く別の道を歩むことになる。付き合う人も変わる。考え方も変わる。転職、独立・起業の一念発起、結婚・離婚、出産といったライフイベントが起こるタイミングも様々だ。それらの変化や違いが、物理的に、精神的に、社会的に、お互いの距離を徐々に徐々に遠ざけていき、気づいたときにはもうお互いが見えないくらい離れてしまっている。

 

私にはBという大学時代の友人がいる。Bは私にとって最初にして唯一の親友だった。Bには思ったことを遠慮なくいえたし、Bも私に対してそうだったと思う。Bとは大学卒業後も連絡を取り合い、今でも年に少なくとも二度ほどは会う仲だ。

しかし、以前とは何かが違う。そう思い始めたのはここ1年ほどだった。なんだか会話がかみ合わず、会話も以前より盛り上がらない。なんでだろう。それは、大学卒業から5年以上が経ち、気付かない間に日常生活から人生におけるあらゆる選択において優先事項も決定基準も何もかも大きく違ってきているからだということに気づいた。Bは結婚して家庭を最優先事項に置いている。私はといえば誰かと付き合ったり別れたり、海外転勤してみたり、基本的には自分のことだけ考えて勝手気ままにやっている。状況も目指すものも考えることも違いすぎている。

そんなわけでいつの日かBとはあまり込み入った話はしなくなっていた。というか込み入った話をするのに必要な前提事実を共有できるほどの時間が私たちにはなかった。Bは旦那がいるので遅くまで飲んでいるというわけにはいかないし、私は私で仕事で忙しかった。私は独身特有の呑気な愚痴を言わないように自然に努めるようになったし、Bの方でも私に言っても共有できないであろう愚痴や悩みを言わないようになった。そしていつしかお互い「親友」とは呼ばなくなっていた。

 

一度仲がよかった人が自然に遠ざかって行くことなんてよくあることだし仕方のないことだ。今は今で新しい人間関係を構築できているのだから、昔の人間関係に固執する必要は全くない。そもそも友人同士はもちろん恋人同士だって元々一つにはなれないのだ(なれたらかえって鬱陶しい)。それでも本音は、かつて悩みや葛藤を語り合った友人と、表面的な話や昔話しかできなくなってしまうというのは寂しい。もう以前の関係に戻ることはできないんだと思うと、どこかしんみりとしてしまう。

 

しかし、それでは救いが無い。別々の人生をたどっても、もう完全にはわかりあえなくても、かつては濃密な時間を共有してわかりあえた友情は永遠だ。そう思いたい。

そんな願いと理想を壮大に描いているのが「ゴールデンスランバー」。言わずと知れた2008年のヒット小説だ。堺雅人主演で映画化もされたので、知名度も高いんじゃないかと思う。

私がこの小説を始めて読んだのは22歳のとき、大学を卒業してすぐの頃のことだった。当時は特別な感想を抱かなかった。要所要所に散りばめられた細かい仕掛けがひかる。よく練られているし、テンポが良くて読みやすい。ただ、ミステリーなのに結局最後まで謎が明かされないのが不思議だな、と思ったのは覚えている。 

しかし、それから5年以上経った今改めて読んで解った。これはミステリーではない。大人の青春小説だ。なんてことのない人生を送ってきた32歳無職の主人公が、突然首相暗殺テロという重罪の犯人という濡れ衣を着せられて国家のお尋ね者になってしまう。しかし、すっかり疎遠になっていた大学時代のサークル仲間、後輩、元カノを中心とした仲間の協力でなんとか逃げ切る。要するに「仲間との絆」でピンチを乗り越えるという、少年ジャンプにでもありそうな単純な話だ。主人公が30代であること、助けてくれた仲間は主人公にとってもうすっかり過去の人たちとなっていたことを除いては。 

昔の友人と、もう巻き戻せないくらい人生や生活そのものも人生観や価値観も離れてしまったことに気付き始めるのが、アラサー、つまり30歳前後なのだと思う。ゴールデンスランバーの主人公は32歳(無職)。大学時代に一番仲が良かったはずの森田とも、元カノの樋口とも、後輩のカズとも、7〜8年連絡を取っていない。いずれももう結婚して子供もいて、それぞれの生活を送っている。そんな彼らが、卒業以来8年の時を経て突然とんでもない濡れ衣を着せられ指名手配されてしまった主人公の逃走劇を命がけでアシストする。 普段は無理はしない主義でも昔の友達のためなら一肌脱ごうというわけだ。

 

表題の「ゴールデンスランバー」はビートルズの末期のアルバム「アビイ・ロード」の収録曲だ。

ビートルズの11番目のアルバムが「アビイ・ロード」だ。・・・つまり、ビートルズが最後に撮ったのが「アビイ・ロード」となる。すでに分裂状態だったバンドを、ポール・マッカートニーがどうにか取りまとめたという。アルバムの後半の八曲はそれぞれ別々に録音された曲を、ポール・マッカートニーがつなげ、壮大なメドレーに仕上げている。

ポール・マッカートニーは・・・ばらばらになったメンバーをどうにか一つにしようとしていた。故郷へ続く道を思い出しながら、だ。結局、バンドは元には戻らず、ポール・マッカートニーは後半の曲をつないで、メロディーを仕上げた。

青柳雅春は、・・・一人、肩をすぼめ、多重録音の機材を前にヘッドフォンをし、必死に八曲を繋いでいる、ポール・マッカートニーの姿を即座に想像し、その孤独さにしんみりとしてしまった。

 

彼らは主人公の事件をきっかけに、呑気に楽しく過ごしていた学生時代を遠く懐かしく想い出す。 でも彼らは知っている、卒業以来随分長く別々の道を歩んできて、お互いもう随分離れてしまったことを。もう元に戻る道はないことを。

「出だし、覚えてるか?」と森田森吾は言った後で、冒頭部分を口ずさんだ。「Once there was a way to get back homeward」

「昔は故郷へ続く道があった、そういう意味合いだっけ?」

「学生の頃、おまえたちと遊んでいた時のことを反射的に、思い出したよ・・・帰るべき故郷、って言われるとさ、あの時の俺たちなんだよ」

ゴールデンスランバー」カズは歌をやめると、言った。「Once there was a way to get back homeward」というフレーズを繰り返した。「なんか、そんな気がするんですよね。・・・昔は、帰る道があったのに。いつの間にかみんな、年取って」

 

人間関係が変わっていくのは世の常で、そんなことでしんみりしている暇などない。センチメンタルになるだけ時間の無駄だ。だから私も明日にはそんなことは忘れて「人間関係も断捨離」とか言っているかもしれない。だけど、この小説は心の底の純粋な気持ちを一瞬だけ思い出させてくれる。

 

ちなみに、主人公の名前は青柳雅春。青春小説というアイデアもあながち間違いではないかもしれない。