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トランプ流 独裁政治?「フレンドリーファシズム」ってなんだ?

トランプ流「独裁政治のつくりかた」

 

ジョージ・ブッシュ前大統領のスピーチライターで悪の枢軸という言葉をつくったことでも有名な、デービット・フラム(David Frum)氏の記事「独裁政治(専制政治)のつくりかた」(How to Build an Autocracy)が話題になっています。

 

 

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ときは2021年。

 

ドナルド・トランプは2回目の大統領選挙を楽々勝利し(大統領の任期は4年)、2期目に入っています。

なぜトランプ氏は余裕で再選されたのでしょうか?

 

それは、影響力のある反対勢力がまったくいなかったからです。

 

大幅な税率引き下げ・政府支出の拡大によるマジックで、労働者の賃金は大幅に上昇。人々は景気が良くなっているように感じ、多くの国民はすっかりそれに満足していました。

 

ビジネス界も、トランプを批判するとひどい仕打ちを受けるので、すぐにトランプに批判的なことを言ったり歯向かうような動きはなくなっていきました。

 

さらに、トランプ政権に批判的だった大手メディアのCNNは、その親会社であるタイムワーナーの買収に政権が一枚かんだのかどうなのわかりませんが、いつのまにかトランプ政権にかなりフレンドリーになっていました。

また、トランプ政権は、Amazon独禁法違反の和解を持ちかけ、同じくトランプ政権に批判的だった傘下のワシントンポストを手放させました。その結果、ワシントンポストは政治関連の記事をやめ、生活関連の記事にフォーカスするようになっていました。

 

 

とくに言論の自由が抑圧されているわけでも禁止されているわけでもありません。アメリカ国民は、相変わらず合衆国憲法修正第1条による言論の自由を享受しています。

しかし、ちょっとでもトランプ政権に批判的なことをいえば、すぐさまトランプ支持者からの強烈なバッシングで自分のタイムラインはいっぱいになります。多くの若者は、そんな面倒なことはしたくないと政治的な発言をしなくなってしまいました。

また、そもそも、いつでもどこでもメールや通話は盗聴されています。政治的な発言はとくに。メールや通話はそういうものとして気を付けて発言するのが、もはや常識です。自分の平穏な生活をまもりたいなら、政治的なことに首を突っ込まずに生きるのが「無難」なのです。

 

トランプ政権に批判的なメディアも依然として一応存在しますが、その読者は相変わらずごくわずかなエリート層に限られています。一般の人はそのようなエリート向けメディアの記事は読まず、実際の政治への影響力はほぼないに等しい状態。

 

一方で、トランプ個人は相変わらずツイッターで国民(支持者)向けに発信を続け、政権は、ブライトバートBreitbart)やFox Newsを通じて政権に都合のよいニュースを流し続けています。

 

国民・ビジネス界を味方につけ、メディアを無力化し、批判勢力にも多くの人は見向きもしない。トランプ政権は、強硬な手段を講じることなしに、まさに「向かうところ敵なし」状態に上り詰めていたわけなのでした。

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これは、デービット・フラムが「このまま行くとこうなるぞ」という4年後のアメリカを描いたもの。こんなことになっていたらかなわんという感じですが、さもありなんとも思わなくもないところが恐いところ。

 

ヒトラーのように大衆から熱狂的支持を受けたわけでも、スターリンのように表現の自由を抑圧したわけでもない。

圧倒的な景気浮揚策で国民を懐柔し、違法にならない程度のグレーな権力の発動でビジネス界を懐柔し、金と権力にものをいわせてディアを無力化する。

表現の自由は一応保障されているので政権批判の発言や運動も制度的にはできなくはないけど、一部のトランプの熱狂的支持者からバッシングがひどいので、多くの人は政治的なイシューにはかかわりたくない。

 

 

フレンドリーファシズムって?

 

映画監督でテレビプロデューサーのマイケル・ムーア氏は、トランプ政治を「フレンドリーファシズム」の走りと表現しました。

 


こんなにいい感じ(?)に気味が悪く、キャッチーな言葉をひろってくるなんて、さすがとしかいいようがない。

 

 

そもそも「フレンドリーファシズム」という言葉は、今から35年以上も前、1980年にバートラム・グロスというアメリカの社会科学者が書いた"Freindly Phascism"という書籍のタイトルからきています。

 

日本でもNHK出版から発売されています。もう絶版のようですが、中古は売られているみたいですね。英語版ならキンドルもあります。

笑顔のファシズム―権力の新しい顔 (上)

笑顔のファシズム―権力の新しい顔 (上)

 

  

私自身は読んでいないので、この本がどれだけ今の状況に当てはまることを言っているのかはわかりませんが、この本が指摘しているフレンドリーファシズムが登場する素地になる社会構造や背景が、いまのアメリカにかなり当てはまるということを言っている人もいます。

  

 

 

動物農場」と「1Q84

 

1Q84 BOOK 1

わたしが上記のフラム氏の「独裁政治のつくりかた」を読んで思い出した小説が2つあります。

 

1つは、村上春樹の「1Q84です。言わずと知れた(?)村上春樹の前作ですね。

 

1Q84のテーマの一つに、今の時代の「悪」の在り方というものがあるといわれています。

 

1Q84には、「リトル・ピープル」という無数の小さな人が出てきます。リトル・ピープルは、自ら何かを語るでもなく、集団でひっそりと悪さをします。そして、作中には、「この現実の世界にもうビッグ・ブラザーの出てくる幕はないんだよ」という発言が登場します。

 

つまり、現代における「悪」とは、「1984年」にでてくる「ビッグ・ブラザー」のようなカリスマティックで強大な力を持っている一人が行う悪じゃなくて、たくさんの無名な大衆の小さな悪意の集積だということです。一人一人がちょっとずつちょっとした悪意をもっていて、それが主にインターネットを通じて伝播して大きくなっていく。そしてあるとき、「サイレント・マジョリティ」として強大な力を発揮する。

「独裁主義のつくりかた」に出てくる自分の生活の平穏をまもりたいがために声を上げない大衆は、「リトル・ピープル」を思い起こさせます。ある意味、トランプ氏はそういうサイレントマジョリティの小さな悪意の集積が生んだ一つの形なのかもしれません。

 

 

 

しかし、そういう無数の無名の悪意が悪さをして、深刻な結果が起きてしまったとしても、「無数」で「無名」の大衆悪なので、もはや誰のせいにしたらいいのかわからないし、誰を倒したら解決するのかもわからないわけです。これはかなりの困りものです。

1Q84」では、「空気さなぎ」という小説で、リトル・ピープルという無数の悪に対抗しようとしましたが、それが奏功したようにも読めませんでした。

 

 

もう1つが、ジョージ・オーウェル動物農場」。

1949年発刊というもう70年あまりまえの小説ながら、トランプ現象が起きて突如米アマゾンの売上上位ランキングに躍り出て話題になった1984年」と同じ著者の著作です。

 

 

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1984年」は、独裁体制のもと、主人公がそれに反抗を試みるも完膚なきまでに叩き潰され屈服するというおそろしく絶望的な話ですが、動物農場」は「独裁体制ができるまで」の話です。1984年は動物農場の続編ともいわれています。

 

動物農場」のあらすじをものすごく簡単に言うと、農場内で人間にヒドイ扱いを受けていた動物たちが、「革命」によって人間を追い出し、動物たちの理想の共和国をつくろうとするのですが、賢い一部の動物(豚)によって、巧みに独裁体制が築かれていく、という話です。賢いものは富み、愚かな者・臆病者は搾取されるという事実が、残酷なまでに描かれています。全員動物なので残酷さは若干緩和されていますが。

 

しかし、恐いのは支配されている動物たちが、「これでも人間に支配されていたころよりはましだ」と言い聞かせて「自分の意思で」従っているところです。

 

ちなみに、この小説は、20世紀前半のソ連のたどってきた全体主義スターリン主義の歴史の風刺といわれています。登場する2頭の豚は、スターリントロツキーがモデルです。

登場人物が動物で童話風で読みやすいので、読んだことのない方はぜひ読んでみてください。最後の締めくくりも、強烈に皮肉なオチになっています。

 

 

終わりに

なんだかとりとめもなくなってしまいましたが、備忘的に思いついたことを書いてみました。とりあえず騎士団長殺し読みたいです。

 

 

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